レッスン「街の断片」

作文1回目

 大通りと我がアパートを結ぶ一本道は、「いってきます」を軽快に、「ただいま」を鈍重にさせる、そんな傾斜道だ。毎日の出勤が億劫な私にとっては、あつらえ向きといえるかもしれない。しかし問題は、その傾斜角が尋常ではない点だ。

 もちろん、上りはきつい。気を引き締めなければ、しっかりと膝をやる角度だ。最寄りの駅から少し歩く我が家は、この坂の前で一呼吸置かなければ、到底上りきることはできない。毎日太ももが筋肉痛だ。

 驚くのは、下りもなかなかにきついということだ。立っているだけで坂の下からの引力を感じる。その力のままに坂を下ってしまうと、勢いのまま車通りの多い車道に放り出されてしまう。雪の日なんかは、特に危険だ。立っていることもままならない。  

 そんな坂に見送られ、迎えられ、毎日のお仕事を頑張っている。

講義の感想

 自分の生活圏の中にあるもの、普段何気なく通り過ぎてしまうようなものの中から、〈ひっかかり〉を感じる〈断片〉を見つける。何も感じなかったはずの対象から、言葉を紡ぐことができれば、それはほかの誰でもない、自分だけの文章になる。

対象がこちらへ投げかけてくることばへ耳を傾けるとは、とりもなおさず、作者が自分の中に沈潜し、みずからの内なることばをすくい上げることを意味します。

〈ひっかかり〉を言語化するために

①現場の観察

 何かを感じとるまでとことん観察する。いままで気づかなかった何かが見えてくるかもしれない。

②自己分析

 感じたこと対して、その原因を深堀していく。

作文2回目(講義の後)

 私の家の前には、大通りまでつづく、驚くほど急な坂道がある。

 こいつは、会社に行くのが億劫な私の重い足取りを、多少軽快にしてくれる。雪の日には、この応援があんまり激しくて転んでしまったこともあったが、概ね助かっている。旅行のときなんかは、頼んでもいないのにスーツケースを運んでくれたりもする。 

 しかし、朝とは打って変わって、仕事から帰ってきた私を温かくは迎え入れてくれない。私は低血圧なので朝の機嫌が悪いが、こいつは逆だ。私がどんなに疲れていようとも、飲んでふらふらになっていようとも、お構いなしに帰宅の邪魔をする。運動不足の私のためだと恩着せがましく邪魔をする。

 毎日顔を合わせている。もう5年になるだろうか。愚痴は言いつつも感謝はしている。私が億劫な会社勤めを続けているのも、三十代を過ぎて体型を維持できているのも、こいつのお陰なのだろうから。

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