女であること

川端康成の作品は、霞がかった幻想的な世界に、漂い流れていくような読書感がある。この夢の中のような浮遊感は、もののあわれの『雪国』や『山の音』でも、魔界の『みづうみ』や『眠れる美女』でも、共通していたように思う。

しかし、この『女であること』にはその浮遊感はなく、物語の設定に応じた緊張感を持って、展開していく。

理想的な夫婦である、佐山夫婦のもとで、被告人の娘である妙子と京都から家出してきたさかえが同棲することが物語のはじまりとなる。佐山夫人の市子とさかえ、そして妙子3人の心理描写は精妙で、そこは川端康成の真骨頂といえる。

ページ数でいうと、最も多いが、テーマ自体はあまり重いものではないし、女性心理の本質に迫った昼メロのようなかけあいは、テンポよく読めてしまう。

川端康成の文章に触れたいが、あまり思想とか哲学とかそういった観念的なものより、わかりやすい起承転結のある物語を求めている人にオススメの作品だ。

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