掌の小説

「掌」には、「掌に収まるほど短い」という意味があり、その表題通りの短い物語が百話以上収録された作品集である。膨大な量に思えるが、玉石混淆などではなく、すべての作品に魅力のある宝石箱だ。

日記のようなものから、ファンタジーまで形式は様々である。、川端康成が創り出した世界観の中でそれらは記憶の断片のように綴られている。

私にとって、読書の感覚というのは、登場人物と深く共感することで、その世界の中をリアルに体験できるというものであった。しかし、この作品群では、過去に自分の身に起きたことのような、どこか懐かしい感じ、卒業アルバムを見ながら思い出に浸っているときのような感じを受けるのだ。

この作品は、触れると美化される、自分の遠い記憶のように、幻想的であっても暗鬱でなく、官能的であっても不潔ではない。

こんだけ作品数があれば、読む人によって好きな作品が異なってくるだろう。それを語り合うのもこの小説の面白ろさの1つだと思う。ちなみに、私は「夏の靴」。

コメント

タイトルとURLをコピーしました