初恋小説集の「初恋」とは、川端康成が22歳の時に婚約した、当時15歳の伊藤初代との交際のことを指す。この交際から婚約、そして婚約破談までを事実に基づき描いた作品群は、「ちよもの」と呼ばれ、小説や紀行文、随筆など様々なジャンルで描かれている。初代との婚約破談事件での失意は、のちの川端文学に多大な影響を与えている。
作品を楽しむときに、作者のルーツを探るのが好きな方は、まず読んだ方がよいだろう。初期の名作である『伊豆の踊子』や『少年』など直接的な影響を与えている名作があるのはもちろんのこと、川端文学全体を通して、美や愛や作品内でほ女性像に「ちよもの」の香りを感じる。
内容としては、1つの婚約破談事件を題材に書いているので当たり前なのだが、この『初恋小説集』に収録されているものだけでも、重複している。しかし、それが逆に、文章化するときの試行錯誤が垣間見えて面白い。同じ場面を比較して違いに注目してみると、新たな気づきを得られるかもしれない。小説としては、他の名作たちと比較すると物足りない部分はあるが、いろいろな楽しみ方ができる小説集であると思う。
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