美徳のよろめき

人妻の姦通を描いた作品で、ベストセラーとなり、映画化もされ、「よろめき」が流行語になるなど、多くの大衆読者を獲得した作品である。

ヒロイン節子が結婚前に接吻をした相手である土屋と再会し、逢引を重ねる内に、肉体的な快楽と精神的な愛情の深みにはまってしまう経過とその終末を描いている。背徳が純粋さの論理の前でどのように解釈されてゆくかが、節子の心理を通して描かれている。

個人的にはあまり好きではない。理由は、節子の性格になんともいえない不快感を抱いてしまうからだ。もともと考えない人間だった節子はこの逢瀬を通じて、徐々に思想が生まれてくる。この思想が、背徳からの言い逃れ、正当化、もしくは背徳そのものを否定するために生まれたものであれば、そこまでの拒否反応はなかったように思う。彼女の思想は土屋そのものであり、それもかなり客観性に乏しいものだ。その後は、不安や嫉妬から逃れるために発達していくように思うが、どうしても客観性に欠ける。彼女は土屋を愛しているのだろうが、理解しようとはしていない。