人魚の嘆き

谷崎潤一郎の短編。異国から持ち込まれた人魚とその美に魅了された貴公子の物語。どこか陰鬱で冗長な大人の童話。

ストーリーはシンプルで特別な真新しさもない。しかし、語彙や表現力はさすがで、そのシンプルなストーリーへ肉付けをし、豪盛な文章へ仕上げている。テーマは「美の追求」だろう。

現実世界では、完全な美というものは到達不可能であり、芸術における美の追求という作業は、極限の更新作業にほかならない。この『人魚の嘆き』で主人公は、人魚という完全な美を手にすることができるが、それはファンタジーだからである。そして、本来手にすることができない「完全な美」を手にすることができたらどうなるのかを描いている。

「美」というものが個人の感性によるものであるなら、絶対というものはない。つまり、現実世界において「完全な」というとき、それはあくまで「理想的な」という意味にすぎない。しかし、本来は絶対的なものを指すはずであるため、そこに矛盾が生じ、結果、到達不可能となるのだ。このような現実世界での矛盾をクリアした仮想世界を作り出し、その先の議論に進むことができることが、ファンタジーの面白さのひとつなのかもしれない。

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