谷崎潤一郎の和歌を棟方志功が板画に彫った24点のコラボ作品集。
中公文庫の『鍵』、『夢の浮き橋』、『瘋癲老人日記』の印象的な表紙で谷崎潤一郎晩年の作品に花を添えた。
版画といえば、私の好きなお笑い芸人、ロバートのコントを思い出す。あれがお笑いになるということは、小学生の時に体験した版画に共通した印象を多くの人が持っているのだろう。
線がぐにゃぐにゃで目がバキバキでなんとも言えない迫力がある。私は絵を描くのは好きだったが、彫刻刀の不自由さから、版画はあまり好きではなかった。
プロの版画は『鍵』の表紙で初めて意識的に見たことになる。あの頃感じなかった魅力を感じる。のびのびとした迫力の一方で無機質さも感じた。おそらく、版画特有の人間の目、あの猫目の形をした、吸い込まれるような黒目から受けた印象が大きいと思う。どこかキュビズムの絵画と近い感じがした。
私が最も好きな歌は、『願はくは空に人工衛星の翔る日に生きてあらばや』だった。
日本の古典を代表する和歌の形式に「人工衛星」という近代的な言葉が異彩を放っているところと、それとは反対に、宇宙や星に思いを馳せるところは平安時代の人々と共通しているところ、そしてなにより、宇宙がもつ壮大さと未知数な部分とを、私の思う板画の二面性が上手に表現しているところが理由である。
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