『吾輩は猫である』に並ぶ、猫文学の名作。猫のリリーに掻き乱される男女の三角関係とその心模様を描いた作品。
猫を異常に可愛がる男と猫に嫉妬するし追い出そうとする女、そして猫を引き取って男との復縁に利用しようとする女、三者三様の思惑が渦巻き、本来企図を持つはずのない猫という存在に作用され人間の心理が変化する様が諷刺を込めて描かれている。
猫の自由奔放な姿からは、谷崎文学のマゾヒストたちが愛した女との共通点を見出だせる。谷崎潤一郎も愛猫家だったということなので、普段から猫のような女性を理想として持っていたのかもしれない。私は猫を飼ったことがないし、猫を愛したこともないが、「ニャア」としか言わないこの動物の描写から、可愛らしさや生意気さ、生態や意識までがはっきりと頭の中に浮かんでくるほどの表現力はさすがである。
心理分析はしっかりと行われていながらも、それだけに固執せず、大阪弁の軽快な会話や情けなくも憎めない庄造をはじめとする愉快な登場人物たちのおかげで、頭を抱えることなく楽しく読み進めることができる。
文豪の中には愛猫家が何人かいるそうだ。今度は内田百閒の『ノラや』を読んでみたい。
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