文豪宅に奉公する個性豊かな歴代「お手伝いさん」。彼女たちが繰り広げる珍事に溢れた日常を描いた喜劇小説。
封建的な社会の中で、家事を任されていた奉公人的性格を持つ「女中さん」は、戦後の民主化に伴う女性の就学・就職率の上昇によって、雇用形態としての「お手伝いさん」へと姿を変えた。
失われてゆく存在へのちょっとした寂しさを胸に、彼女たちとの思い出を振り返ってゆく。
個人的に、同じ鹿児島出身の女中さんが活躍するのは、非常にうれしかった。今までの谷崎作品の中に鹿児島のことはまったく出てこなかったのに、ここにきて鹿児島弁のことにまで触れてもらっていた。
エピソードとしては、コメディ強めで笑えるものが多いのだが、それと同時に、作者自身の長い文豪人生を振り返っているようで、そこに思いを馳せると大団円ではぐっと来るものがあった。
山口晃氏の挿絵も好きだ。可愛らしさがあって、この作品の雰囲気にぴったりとはまっている。あまり、挿絵に興味を持ったことはなかったのだが、他の作品も見てみたいと思った。
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