谷崎潤一郎

乱菊物語

四十代半ばの谷崎潤一郎が、「大衆小説」として、各所専門家からの制約的な意見からいったん距離をおいて、想像力のまま自由に筆をふるおうと書き出した。 舞台となる室町時代の戦乱と、主要な登場人物の一人である「お菊」の名から、この物語の題と...
谷崎潤一郎

蓼食う虫

「蓼食う虫も好き好き」 これは、蓼のような苦味のあるものでも好んで食べる虫がいるように、人の好みはさまざまで一概にはいえないという意味の慣用句だ。使われる場面といえば、異性の好みを仲間内で話すときであろう。いわゆる「B専」というやつ...
谷崎潤一郎

卍まんじ

2組の男女の愛欲渦巻く関係が「卍」模様のように交錯しながら破滅へと向かってゆく物語。両性愛者の美女に翻弄された女が自らの異常な体験を告白する形式で描かれている。 舞台は大阪やであり、この告白も大阪弁で行われているところに、この作品の...
谷崎潤一郎

痴人の愛

カフェで出会った美少女を引き取り、理想的な女に育てようとした、真面目な男が、奔放な正体を徐々に現してくる少女に対し、振り回されながらも依存性を強めていった過程を、男の一人称告白体で描いた物語。豪奢な表現力と繊細な構成力とが合わさった谷崎文...
谷崎潤一郎

人魚の嘆き

谷崎潤一郎の短編。異国から持ち込まれた人魚とその美に魅了された貴公子の物語。どこか陰鬱で冗長な大人の童話。 ストーリーはシンプルで特別な真新しさもない。しかし、語彙や表現力はさすがで、そのシンプルなストーリーへ肉付けをし、豪盛な文章...
谷崎潤一郎

金色の死

「私」の視点から友人の岡村君の生涯を描いた物語である。「私」と岡村君との芸術をテーマとしたディスカッションが見どころとなる。そして、岡村君の芸術論は作者自身の考えといえるだろう。 この『金色の死』については、三島由紀夫が『作家論』で...
谷崎潤一郎

刺青

谷崎潤一郎本人が処女作だとしている短編。ある腕ききの刺青師が、刺青師としての宿願を果たす物語。この10ページほどの短編には、快楽や美、そしてフェティシズムなどその後の谷崎文学の主題となるものが凝縮されている。彼の文学においては、快楽や美と...
読書論

生れつき鈍い感覚をも鋭く研く/文章読本

文章読本の目的 冒頭部分にこうある。〈云わばこの書は、「われわれ日本人が日本語の文章を書く心得」を記したのである。〉つまり、上手に書くための本である。しかし、読書論のカテゴリーで語るものではないかというとそうではない。文豪が長年の経...
川端康成

少年

川端康成が中学時代に寄宿舎で一室に暮らした清野少年。彼との愛は、中学時代の日記、高等学校時代の手紙、大学時代の「湯ヶ島での思い出」と、学生時代長き渡って綴られていた。五十歳になり全集を出す際、この三つを読み返し、並べ、言葉を添えながら結び...
読書論

生命ある文章へのノスタルジア/新文章読本

新文章読本の目的 〈本稿は、文章への素直な道に読者を誘うのが目的〉と頭の方で述べられている。「素直な道」という言葉の意味するところが明確にはわからないが、「誘う」と言うからには、読者を文章の魅力に気づかせることを目的としているのだろ...
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